祖母の料理はどれも美味しかった。
フランス料理、イタリア料理、日本料理、いや、単なる田舎料理である。
寒い日は熱々のおでんやふろふき大根、鶏肉入りのはっと汁(すいとん)やかぼちゃの煮っころがしなどなど。特に塩漬けの保存食を水出しした蕗と筍の煮物料理は絶品だった。ご飯を何杯もおかわりしたものである。

部活の野球で三振やエラーをした時、友人との将棋で負けた時など、悔しさで落ち込んだ時などは祖母にねだって作ってもらったものだ。
ご飯の上に山盛りにのせ、大口を開けて頬張ると、嫌なことなどは一瞬にして忘れられたのだった。

当時、母は小学校の教員として、転勤で家を空けたり、通勤などの忙しさもあって、平日は殆ど祖母が料理してくれた。私や妹は祖母の手料理で育ったといっても過言ではない。
祖母の料理はどれも美味しかったが、既述の蕗と筍の煮物と並び、モヤシ料理も大好物の一品だった。
中身はいたってシンプル。モヤシのみか、たまにさつま揚げを入れただけのものだが、たまらなく美味しかった。

「牛よりも豚 豚よりも鶏肉が好き われの胃袋 野菜はモヤシ」未だにそうだが、野菜はモヤシが大好物である。おそらく祖母の手料理が影響しているのではないだろうか。

私は学生時代自炊生活を送っていたが、春休みや夏休みに帰省する度、祖母に作り方を教わった。
しかしながらどうしても祖母の味を出すことは叶わなかった。あれから40年以上が経ち、祖母の他界した年齢に近づきつつある今でも、あの味は出せないでいる。

親よりの教えを守り冬至には取りおく南瓜甘く煮つくる ↓短冊あり

祖母の詠んだ一首だが、今頃黄泉の国で、かぼちゃの煮っころがしや煮込んで軟らかくなったはっと汁、祖母の匙加減が際立つモヤシ料理を祖父や父が美味そうに食べているに違いない。
そんなことを思い浮かべながら、「やっぱりばあちゃんの手料理はうめがったなぁ」と、小声で囁きながら作る料理は、少しばかり塩味が効き過ぎているようである。


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この短冊は祖母が詠んだ一首を、奥州市の叔母が揮毫したもの。




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