昨日の第50回衆議院選挙では、大方の予想通り、自公合わせても過半数割れとなった。「政治とカネ」の問題が如実に現れた結果だろう。
問題はこれからである。
果たして我々一般の国民にとって、暮らしやすく、安心できる環境がどう作られ、保たれるのかが当選した議員らの双肩にかかっている。
しっかりと国民の目線に立ち、衣・食・住の安定、特に先進国のなかでも低水準の食料自給率、食の問題にしっかりと取り組み、国家存亡の重要課題として真剣に取り組んでいただきたい。

井上ひさしさんが1997年前に編纂した『井上ひさしの農業講座』を今読み返している。
そのなかで、元東京農工大学学長の梶井功(故)さんが述べていることに、憤りを覚えずにはいられなかった。
梶井さんに対する怒りではない。日本の農政を執り行う行政府に対してである。
と云うのも、梶井さんの寄稿文のなかに、1960年には80%近くあったカロリー自給率が、1980年には53%に迄下がった。そのことに対して大変危惧している、とある。
四半世紀以上も前のことだが、当時もその食料自給率に賢者は嘆いていたようである。

しかしながら今はそれどころではない。一般的に38%と云われているが、実際にはそれどころか、種子や化学肥料なども考慮すると、鈴木宣弘東大教授の試算によると実質自給率は9.2%だとのこと。
あまりにもショッキングなことである。
もし万が一、最悪の有事にでもなった場合はもとより、平時であっても、自然現象による不作のときなどは当然自国民を優先し、自国内の消費分に回すだろう。
種子や化学肥料はおろか、輸入していた食料が入らなくなったらどうするのであろうか。 
「食い物がなくなったから直ぐに作れ」「野菜を作っていた畑を直ぐに水田に戻して米を作れ」と云われても、そんな簡単にできる筈がない。いくらお金を積まれようとも、強制力のある法的手段に出られようとも、無理なものは無理なのである。

日本人経済学者のなかで、ノーベル賞に一番近いと目されていた経済学者の宇沢弘文(故)さんの著書『宇沢弘文の経済学(社会的共通資本の論理)』のなかに、「農の営みの現代的意味」として、次のように述べている。

農の営みというとき、それは経済的、産業的範疇としての農学をはるかに超えて、すべて人間的、社会的、自然的な意味をもつ。農の営みは人間生きてゆくために不可欠な食料を生産し、衣と住について、その基礎的な原材料を供給し、さらに、森林、河川、湖沼、土壌のなかに生存しつづける多様な生物種を守り続けてきた。農の営みは、自然環境をはじめとする多様な社会共通資本を持続的に維持しながら、人類が生存するためにもっとも大切な食料を生産し、農村という社会的な場を中心として、自然と人間との調和的な関わり方を可能にし、文化の基礎をつくり出してきた。このような意味で、農村自体もまた一つの重要な社会的共通資本の構成要因である。
これまでの日本の農政はもっぱら、農家の経営的規模を大きくし、労働生産性を高めることによって、日本の農業を、工業部門と比較して劣らないものとし、他の国々の農業とも競争しうる効率的なものにすることに焦点がおかれてきた。このことは長い間、日本の農業のあり方を規定してきた農業基本法にもっとも端的に表現されてきた。
しかし、このような政策にはおのずから限界があることが明確になりつつある。
と述べている。

近年、河川の氾濫や土石流などの水害が急増している。日本のみならず、世界各国でもそうだ。
線状降水帯や局所的なゲリラ豪雨がその原因かと思われるが、しかしながらそれだけではあるまい。

高齢化や後継者不足、特に労働に対する対価があまりにも低いことが後継者不足の最たる原因と考えられるが、それらのことにより、特に中山間地の水田が耕作放棄地化している。
中山間地の水田は雨水や湧き水を蓄え、河川の激流を一時的に緩和させるなど、山地間の水脈の受け皿となるダム湖の役割りを担っている。水田と対をなす溜池や用水路もまた一時的に洪水を抑える役割りを果たしている。

日本の水田は中山間地及び平野部の水田を含めると約280万ヘクタール、約60億トンもの水量を溜めることが可能だと云われている。300箇所以上の洪水調整ダムの約4倍の貯水能力があるとも云われている。
また、水田に溜められた水は、涵養により地下水となり、その約60%が河川に緩やかに放出されるとも云われている。
そのように、水の反乱、水害対策には中山間地での水田の存続が必要不可欠なのである。

現在、耕作放棄地(主観ベース)は年々増加し、平成27年の内閣府の調査によると、42万3千ヘクタールにも広がっているとのこと。
全国の農地面積は約449万6千ヘクタール(平成27年調べ)。中山間地はその約4割を占め、179万8千ヘクタールである。農家(専業・兼業含む)数では総農家数の約4割を占めている。
そのうち、42万3千ヘクタール、つまり中山間地の23.5%が既に耕作放棄地と化しているのだ。但し、この統計は平成27年の調査によるもの。今から9年も前のデータである。
この9年間で急速に増えていることに疑う余地はないことから、2024年現在では更に耕作放棄地が増え、荒野となっている筈である。

先日、新聞紙上で今年の作況指数が公表された。
見出しには「水稲作況24年ぶりの良」とあった。岩手県内における水稲の作柄についての東北農政局発表によると、「平年を100とした場合の作況指数は106で、2000年以来24年ぶりの良」との発表である。
一見すると、平年より6%も多く収穫でき、全体の収穫量が増えたと思われがちだ。

しかしながら作況指数の定義として、「10a当たりの平年収量に対して、10a当たりの収量比率」として定義されている。
つまり10a当たりの収穫量が増えたとしても、全体の作付面積が減っている以上、必ずしも全体の収穫量が増えたことにはならないのである。
既述したように、高齢化や後継者不足などにより、年々耕作地は放棄地化し、減少し続けている。

冒頭にも触れたが、昨日、今後の日本の行く末を大きく左右するであろう第50回衆議院選挙が行われた。
大方の予想どおり、裏金問題で世の中を震撼させた自民党が大敗し、自公合わせても過半数を割った。
今後の政局を注視しなければならないが、いずれにしても、「食と安全」を守る為の農業政策に期待し、我々一般国民が安心して暮らせるような世の中であることを衷心より願わずにはいられない。


430.防災対策の核心 2019年11月15日


koinoiro





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